Levi Ackerman
2023 BIRTHDAY
EVENT PAGE
-unofficial dream site-
クリスマスドリームティータイム2023では
ありがとうございました!
created by ena
リヴァイ課長と
手違いで相部屋に
なった話
小説の途中でR18シーンに移動する隠しボタンがあります。
パスワードは リヴァイ を半角英語(小文字)で。
成人済みの方のみご覧ください。
「あー。新幹線、止まってますね……」
「クソが。こんな天気になるなんて聞いてねぇぞ」
スマホで運行状況を確認する私の横で、リヴァイ課長がしかめ面をした。
駅の改札前では、私たちのように渋い顔をするサラリーマンが何人も立ち往生している。
今、私とリヴァイ課長は3泊4日の出張で県外に来ている。
今日はその4日目だった。
夕方頃から降り始めた雨は、取引先との食事を終えた頃には横殴りになっていた。
乗るはずだった新幹線は当然のように運休。
他の陸路もあてにはならない。
「仕方ねぇな。今夜の移動は無理だ。ホテル取るぞ」
はあとため息をついた課長。
そして彼と私は手分けして近隣のビジネスホテルを探すことにした。
しかし30分後、私たちは途方に暮れることになる。
行き場を失ったビジネスマンを嘲笑うかのように、問い合わせたホテルはどこも満室だった。
私たちのように行き場を失い急きょ予約した人が大勢いるのだろう。
「最悪ネットカフェでしょうか……?」
できるならそれは避けたい選択だった。
何しろ今日は課長の誕生日なのだ。
そんな日に出張最終日であいさつ回りや会食、と仕事三昧ではあったが、今夜はせめてあたたかいベッドでは寝てほしい。
「ネカフェじゃ疲れがたまるだけだろ。それにああいう場所は衛生面が気になる」
ごもっともである。
綺麗好きなリヴァイ課長の眉間のしわがどんどん深くなっていく。
そして、近場で見つけられる最後のホテルに電話した、そんなときだった。
「あ、本当ですか! ありがとうございます! 二名です!」
スマホ越しに「急な悪天候で大変でしたね、お気をつけてお越しください」とフロントの女性が気づかってくれる。
少し歩くが、空き部屋のあるホテルをようやく見つけることができたのだ。
よかった、ネットカフェで身体をバキバキにせずに済む! と、藁をも掴む思いで傘を盾にスーツケースを引きずり、パンプスやスカートのすそを湿らせながらたどり着いた、なかなか年季の入ったビジネスホテル。
ホテルの名前は「ホテルニューシーナ」。
斜体カタカナのロゴが一層歴史を感じさせてくる。
そこに待ち受けていたのは、愕然とする真実だった。
「ダブルの部屋しか空いてない……?」
フロントの女性が申し訳なさそうにペコペコと頭を下げる。
どうやら予約が殺到したせいもあって手違いでうまく予約できず、今やダブルベッドの1部屋しか残っていないらしい。
あぁ、私はもう課長の顔を見られない。
また土砂降りのコンクリートジャングルに戻ったり、ネットカフェの狭い個室に身体を押し込んだりといった、悲惨な可能性を考えることすら恐ろしかった。
いったい私たちが何をしたというのか、教えてください神様。
と、頭が真っ白になっていると──
「分かった。泊まらせてくれ」
驚いたことに、横からリヴァイ課長がクレジットカードをフロントに差し出したのだ。
「!?」
訳が分からず唖然としている私を尻目に、課長はさっさと手続きをしてルームキーを受け取ってしまった。
「行くぞ」と有無を言わさぬ口調で促され、ホテルのエレベーターに乗る。
天井の蛍光灯がいやに白く、このホテルの築年数に思いを馳せたくなるが、今はそんなことをしている余裕はない。
エレベーターの扉が閉じた途端、私は首をぐるんと隣の上司へ向けた。
「課長!?」
「うるせぇな、俺がネカフェで寝りゃいいだろ。その代わりここのシャワー貸せ。どこの野郎が使ったかも分からねぇシャワールームはご免だ。あとかさばる荷物も置かせろ。」
「それも駄目ですって!」
どうやら課長は自分がネットカフェに行こうと思っているらしい。
今日が誕生日の彼をあの空間で寝かせるなんて、言語道断だ。
「私がネカフェに行きますから!」
「却下する」
「明日の朝には身体バキバキになりますよ!」
「お前よりか丈夫だ俺は」
「でも……!」
エレベーターから降り、渋りまくりながら歩いていると、割り当てられた部屋に着いてしまった。
今どき珍しくなってきている長いアクリルキーホルダー付きの鍵を使い、リヴァイ課長はさっさと中に入っていく。
「でもでも言っててもしょうがねぇだろ。どっちかが出ていかねぇなら二人で相部屋になるしかないんだからな」
「──!」
スーツケースを部屋のすみに置きながら、課長はバキバキになる覚悟の決まった顔でこちらを見た。
私は強くこぶしを握る。
この暖房のきいた部屋に、もとい、やっと見つけたオアシスに留まってほしい一心で、息を吸った。
「相部屋でもいいです」
「あ?」
「課長となら相部屋でいいので、ここで寝てください……!」
かなり思いきったことを提案してしまった。
が、とどのつまり私の要望は、彼の言う通り、この案に収まることになるわけで。
言ってから心臓がバクバクと早まりだす。
でも正直に言えば、私はリヴァイ課長と一つの部屋に泊まることが嫌ではなかった。
なぜなら、彼に対して上司以上の気持ちを抱いているから。
好きなのだ、リヴァイ課長のことが。
一緒のチームになってからその責任感や仲間を思いやる姿勢に惚れ、ずっと想ってきた。
心底尊敬しているし、大好き。
だからちゃんとベッドで寝てほしかった。
突然の爆弾発言に虚をつかれたような顔をした課長。
はっとした。
そもそも相手は潔癖体質だ。
もしかしたら他人と相部屋もNGなのかもしれない。
「えぇと、私と一緒の部屋が嫌だったら、それは申し訳ないんですが……」
強気から一転、尻すぼみな声になってしまった。
すると課長はぐっと眉根を寄せ、指で額を擦った。
「……分かった。お手上げだ。先に風呂入れ。言っておくが、シャワー中が考え直す最後のチャンスだからな」
「は、はい!」
相部屋で、決まりだ。
今さら顔が猛烈に赤くなるのを感じつつ、私は半ば裏返った返事をし、それから自分のスーツケースからお風呂セットをひっ掴んで風のようにバスルームへかけ込んだ。
シャワーのお湯をかぶり、もうもうと立ち上る湯気のなかで5分ほど棒立ちになった。
なんだか、とんでもないことになってしまった。
雨は降り続いているが、チェックインしたときより勢いは弱くなった。
備え付けのドライヤーで髪を乾かし終えたタイミングで、入浴を終えた課長がバスルームから出てきた。
私と同じように、ホテルの浴衣をまとっている。
「…………」
「…………」
ダブルルームといっても、部屋自体はそこまで広くない。
目算で7畳ほどだろうか。
一般的に、カップルや夫婦といった心身の距離が近い者同士が泊まる部屋だ。
薄い浴衣姿の男女、それも上司と部下が過ごすにはいささか狭い。
部屋の中に彼の姿を確認しただけで、肌が、五感のすべてが彼を意識してしまう。
それは相手も同じなようで、課長はぎこちなくベッドに腰かけた。
そして私から意図的に目線を外し、口を開く。
「朝一で帰るとエルヴィンには伝えた。さっさと寝ちまうぞ」
「はい……」
「まさかこの期に及んでどっちが床で寝るか口論する気はないよな?」
「も、もちろんです!」
ドキドキはするが、覚悟は決まっている。
私たちは仕事の疲れを少しでも癒すためにこの選択をしたのだ。
1つのベッドを二人で共有する他ない。
寝相に自身のない私がダブルベッドの壁側になり、おずおずと乗り上げる。
中心に背を向けて身体を横たえると、課長もベッドに乗り上げたのがスプリングのきしみで分かった。
それから寝そべった音がして、上からばさりと1枚の掛け布団がかけられる。
次いで室内灯が消され、ダッシュボードにあるルームランプの明かりが最低限に絞られた。
「では、おやすみなさい」
「あぁ」
寝るための挨拶をしたはいいが。
「…………」
だめだ、と思った。
背後に課長の存在を感じ、背中が熱い。
心臓が暴れて仕方ない。
想像以上に相手を近くに感じる。
ちょっと手を広げれば相手に触れてしまうだろう。
一つのベッドで横になるなんて、とても正気じゃいられなかった。
あぁ、覚悟を決めたつもりだったが、情けない、今夜はきっと寝られないに違いない。
「──なあ」
「はひ!」
意識しまくりで身体を強張らせているところに急に後ろから声をかけられ、肌が粟立った。
それから少しの沈黙の後、
「お前、“俺と”なら相部屋でもいいと言ったな」
と、課長。
事実なので「はい言いました」と答えるしかない。
すると衣擦れの音がし、ベッドがキシリと揺れた。
「あれはどういう意味だ?」
どういう意味って。
どうしよう、どうしよう、首筋が熱い。
さっきの台詞を蒸し返されるとは思ってもみなかった。
あなたに恋してるからです、なんてそう簡単に告白できるはずもなく。
「え、えぇと、それは、だから……」
焦って頭がぐるぐるし、ごまかすための回答も思い浮かばず、時間稼ぎのつもりで寝返りを打ってみる。
「──!」
そうしたら、ベッドに片肘をついてこちらを見るリヴァイ課長と、真正面から対峙した。
薄闇の中で、彼はビジネスのシーンでは見せない表情をしていた。
うまく言葉で表現できないが、一人の男の人の顔をしていて、胸が一層締まる。
すると、相手は短く笑った。
「顔が、お前、真っ赤だな。暗くても分かる」
その声色は、部下に向けるものでは到底なく。
低くて、やさしくて、どこか甘くて。
恋人同士だったら、次に髪を撫でてくれているだろう。
抱き締めてくれているだろう。
そんな声を聞かせてくれるのに、なぜ今それが実現していないのだろう。
なぜ私たちの間には30センチもの距離があるのだろう。
バグを起こしたような現実にもうよく分からなくなって、混乱したみたいに高ぶって、ついには涙ぐんでしまった。
もはやごまかすことなどできない。
「課長のことが、好き、なので……」
喉が狭く感じて息がしにくく、かすれた声の言葉が出た。
「……本当か?」
課長は目を見開き、そしてなぜか顔をしかめた。
「俺をおちょくってるわけじゃないよな?」
さらに火照りながら「そんなわけないじゃないですか!」と語気を強める。
おちょくれるほど軽い気持ちではないのだ。
そして固唾を飲んで返答を待つこちらを、彼は見つめ返してきた。
「いや、悪い。俺も……、俺もだ。お前のことをいつも見ていた」
「それって課長も私のこと好きってことですか?」
この非日常的な状況だと、分かりやすい言葉でないと素直に受け取れない。
大切な人だから流れで変なことにはなりたくない。
たとえNOだとしても、そうハッキリと言ってほしかった。
照れているのか、仏頂面の課長。
それでも口元には小さな笑みが浮かんでいて。
「好きだ。お前が入社したときから」
昇天してしまいそうだった。
つむじから足の指先までがじんじんと痺れて、自分の身体ではなくなったみたい。
「なんだか夢みたい」
「あぁ……新幹線が止まってよかった」
短く笑った彼はそっと左手を布団から出し、私の頭をやわらかく撫でた。
それだけで昇天どころか全身が跡形もなく溶けてしまいそう。
「課長、好きです」
「あぁ」
「好き」
「何度言うんだ」
薄い暗闇の中で、課長の目がやさしくなっているのが分かる。
気持ちがどんどん膨らんで、熱が灯ってゆく。
「課長、もっと、さわってくれますか」
彼は息を飲むような雰囲気になった。
頭にあった手が下りてきて、頬に触れた。
その瞬間、私の身体は電流が流れたように痺れ、歓喜した。
彼の肌はあったかくて、心地いい。
「もっと、いろんなとこ、」
「いろんなとこか」
眉をしかめて少し笑った彼。
首筋を手のひらが撫でてくれて、はあ、とため息が出た。
やがて浴衣の上から肩を擦るように撫でる。
それから手は腰までゆっくりと下りていき、その瞬間、ぐっと引き寄せられた。
「あ……!」
浴衣同士が密着し、その先に隠された硬い肉体を感じた。
急激に相手が近くなり、視界がチカチカする。
課長は私の額の辺りに頬を押し付けた。
「こんなの我慢できるわけがない」
「私も、我慢できません」
目の前の浴衣をぎゅっと握る。
お互いに限界だったことを知り、吐息がしっとりと湿度を持つ。
直後、リヴァイ課長の唇が熱っぽく私のそれに押し付けられたのだった。
翌朝、チェックアウトをしに来たフロントにて。
「あの、泊まらせていただいてありがとうございました。困ってたので本当に助かりました」
昨夜に対応してくれた女性スタッフがいたので、ルームキーを返しながら感謝を述べた。
「とんでもございません。手違いがあって申し訳ございませんでした」
すまさそうに頭を下げる女性。
「次は確実にシングルルームを2部屋ご用意させていただきます」と付け加えて。
「いえ、まあなんというか、結果オーライだったので全然大丈夫です」
言いながら、額に汗をかいた。
何を口走っているんだ、私は。
そんな私を見た女性が、何かをひらめいたような顔をした。
「もしよろしければ、お泊りいただいたお部屋のキーホルダー、お持ち帰りになりますか?」
「え?」
鍵に繋がっている、紫色のアクリルでできた棒状キーホルダー。
長い間使ってきたもので、今日から新しいものと交換するらしい。
あの部屋でいい思い出ができたのなら、記念として持ち帰ることも可能とのことだ。
「そういうことなら、いいですか?」
満面の笑みで女性が鍵を留め具から外し、私は照れ照れしながらそれを受け取った。
レトロなロゴが趣のある、ルームキー。
それを見ていると郷愁のような懐かしさを感じるとともに、昨夜の照れくささもよみがえってくるようだった。
「もらっちゃいました!」
さっそくロビーの端で待っていたリヴァイ課長に報告する。
突然のことに、いぶかしげな顔をしながら彼は私の手にある「ホテルニューシーナ」を見た。
「課長、記念にいります?」
「いらん。お前が持っとけ」
興味がないようで、そっけない反応。
まあ、予想していた回答と同じではあった。
が。
「俺の部屋の合鍵でも付けときゃいい。帰ったら渡す」
コートのボタンを留めながらしれっとそういうことを言うので、小さな声で「はい」としか言えなくなってしまった。
クリスマスであり、課長の誕生日だった昨日。
新幹線が止まったときはどうなることかと思ったけれど、まさに禍転じて福と為してしまった。
「じゃあ帰りましょうか、リヴァイさん」
「二人きりのときは“さん”もいらねぇよ」
「わかり、ました」
照れるこっちを見る彼がほのかに嬉しそうで、楽しそうで。
これからもっともっと、美味しい顔や照れた顔、リラックスした顔や安心した顔──たくさんの表情を一緒にしていきたいと思う。
そして時おりルームキーを眺めて、この日のことを思い出して二人で微笑むのだ。
この一年、あなたが健やかに過ごせますように。
あなたに良いことがたくさん起こりますように。
様々な嬉しいことが降り注ぎますように。
そんなことを願いながらホテルニューシーナを出た。
雨はすっかり止んで、ビルの隙間から朝日がまぶしく覗いていた。
昨晩に盛り上がりすぎて新幹線の中で二人仲良く爆睡したのは、ここだけの秘密だ。
Happy Birthday, Levi!